『或る夏の日々』制作ノート
◇どのようにして始まったか……
昨年、音だけの世界、ボイスドラマが好きだと気がついたことは以前記した通り。
その後すぐにボイスドラマみたいなゲームが作りたいと思った。
このふわっとしたボイスドラマみたいなゲームという思いは明確な形を何も想像していなかった。
そしてまたふと思った。文字だけのテキストアドベンチャーゲームならボイスドラマと相性が良いのではないか
これも詳細なシステムをイメージしていたわけではない。ただなんとなくそう思った。
それで、なんとなく夏休みの冒険的な内容がいいかなと思った。
こうして全てがふわっとして明確ではないまま、取り敢えず目に見える具体的なイメージが無いとアイデアが浮かばないなと思い、主人公や執事をプログラム的に配置し、セリフが表示されるようにした。
後は、会話が進展するようにする為にはプログラムの構造をどうするべきか、データをどのように持たせるべきかを逐次考えながら、まったく設計のない、どうなるかわからないプログラミングを始めた。まさにこのゲームプログラミングこそがアドベンチャーであった。
ダンジョンだけは前作のロジックを流用して初期から存在した |
◇次々と気づいてしまう事実……
プログラミングを進めながら、同時に登場人物の状況に応じたセリフを考え、そしてセリフを考えながらキャラクター設定を徐々に固めるという感じで、全く何も無いところに点を描き、点から点につなぐように作業は進められた。
今まで、ここまで何も決まっていないプログラミングをした事はなかった。
どこまで作れば終わるのかも見えないし、どういうゲームになるのかもわからない。
ただゲーム内の夏休みが終わればゲームも終了するという事だけは決めていた。
でも、なんのゲームシステムとしての設計もなく、プログラムの構造も決まっておらず、データ構造も都度必要にかられて設計するという状況では何もかもが手間がかかった。
ゲーム内のすべての行動は専用のプログラムが組まれており、使い回しが殆ど無い。
状況に応じて会話を変化させるために、セリフとプログラムが密接になっており、データとプログラムの境目も曖昧であった。
7月に思いつき、8月に始めたプログラミングは、当初なんとなく8月中に完成させようなんて思っていたが、8月が終わってもなんの目処も立たない状況で、これはいつ終わるのだろうかという不安にかられた。
そして、月日はどんどん流れ、秋になり、秋が深まり、冬になった。
夏から冬に至る間に終わらせるためにどうするかを考えていた。
登場させようと思っていたキャラクターを2名削除させる決定をしたり、1ヶ月だったゲーム内期間を1週間に変更したりと、完成させる為に要素を削る方向で調整した。
当初は音だけの世界ボイスドラマと文字だけの世界テキストアドベンチャーは相性が良いのではと思っていたが、実際に始めるとそんな事はなかった。
作り込んだストーリーを読ませるノベル系のゲームならボイスドラマとの相性は良いのだろうけど、プレイヤーの行動、状況に応じて細かくセリフを変える事を実現しようとした私なりのテキストアドベンチャーは、あまりにも多様なセリフが必要で、声優さんにお願いするとしたら膨大すぎる上に、細かなパーツとして依頼して組み合わせた場合、不自然な感じの音声になることははっきりしていた。
当初は全てのセリフに音声が入ることを想定していたのだけど、そんな事は不可能だと気が付いた。
なので、一部のボイスドラマパートを除くと、音声が入ってボイスドラマっぽい展開が行われるのはエンディングのみとなった。
結局のところ、ボイスドラマっぽいゲームが作りたいという思いと、シナリオを読ませるようなゲームは作りたくない、自由に行動して欲しいというゲームデザイナーとしてのこだわりがぶつかった妥協点がこれだった。
◇公開か破棄か……
実は前作『D&B Part1 脱出』の後に3Dゲームを作って遊べるようにはしていたのだけど、これは公開しなかった。
なので、この『或る夏の日々』も完成度に満足できず、時間ばかりが過ぎるなら公開を断念するという選択肢もあった。
ただ、冬になった頃には既に声優さんに音声の依頼を行っており、後戻りはできないなと思っていた。
後は納得できない完成度では公開できないが、出来るだけ速やかに公開したいという方針で突き進んだ。
年内には公開したい。それが12月初旬での目標であった。
その目標があったので、にゃんこの声を依頼する際の期限を12/28に設定していたくらい、ギリギリまでなんとかしようとはしていたのだった。
しかし、その目標設定はかなり甘かったと言えるだろう。
確か12月30日くらいまでは年内年内なんて考えが頭の中をぐるぐる回っていたはずだけど、さすがに明日で今年が終わり、まだ不具合が残っているという状況では来年に持ち越しになるという事実を認めざるを得なかった。
◇そして公開へ
その後、次々と発見される不具合や使いづらさ、分かりづらさを改修しながら1月は走り続けた。
正月が終わる頃には公開出来るかなとも思っていたが、実際には正月期間中ほとんどゲーム制作に時間を使っていたにも関わらず、正月が終わっても公開できそうな状況にはなっていなかった。
だんだん公開が近いと感じる段階になって、告知用の画像が無いとか、遊び方の説明を作っていないとか、ゲーム制作に必死で公開に必要な要素が全然準備されていなかったので慌てて色々と準備した。
告知動画などは無くても公開できるとして諦め、1月31日、遂に『或る夏の日々』を公開した。
◇公開後も繰り返される改修
公開後、後回しにしていた告知動画の作成を行った。
動画をまともに作ったことは今まで無く、過去作品の告知動画はゲーム画面をキャプチャーしただけのものだった。よく見ると2月1日の更新にバージョンが振られていないので25回更新していたようだ。
◇出来上がったゲームシステム
キャラ画像
マップ表示とオートマッピング
ボイスドラマ
一部のイベントによって発生するボイスドラマパートを除くと、ボイスドラマ風になるのはエンディングに限られる。
収録していただいた音声は実に600を超え、その組み合わせはどれだけのパターンが存在するか考える気にもなれない。
プレイヤーが自由に行動を選択し、その選択によって変化した内部的パラメーターによってエンディングは変化する。
どのような選択をしても必ずエンディングはハッピーエンドになる。
読書ばかりしていれば本がたくさん読めてよかったなぁという内容になるし、宿題ばかりしていても宿題が捗ってよかったなぁというエンディングになる。
エンディングの系統は各キャラ系(瑠璃ちゃん、夕姫さん、執事さん、にゃんこ)読書系、宿題系、睡眠系、読書&宿題系など大きく分けるとそれほど多くないのだけど、行った行動によって実際は大きく異なるエンディングになる。
多分ほとんどの人が選択しないだろうと思われる行動、宿題系、読書系、読書&宿題系なども様々な音声を用意してある。
ヒロインとの展開を重視しながら読書や宿題を頑張った人向けにも読書や宿題の状況に応じた音声を用意しているし、完全にお一人様で他のキャラとかかわらずに読書や宿題を進めた場合の音声も多くの種類を用意した。
これらは自由に行動できるというゲームシステムを考えた以上、自由に行動した結果が評価されなかったら残念に思うだろうから実装を行った。
しかし、実際に出来上がって、公開した後、やっぱりヒロインとのロマンス系エンディングを迎えてほしいなという気持ちは強くなった。
というのも、元々のきっかけが「ボイスドラマみたいなゲームを作りたい」なのだし、自分が感情移入して頑張ってセリフを作ったのもロマンス系のエンディングだからだろう。
なので、メインヒロイン瑠璃ちゃんのセリフは公開後も改修を重ねながらロマンス系に進むようなヒントを追加していった。
夕姫さん(謎の女性)との関係も夕姫さんの望みがわかるような形でセリフを変更していった。
執事さんとにゃんこについては、ダンジョンがないので、ダンジョンがなくても充実感があるようにしないとという思いから色々と要素を増やしていった。
特ににゃんこは選択できる行動が一番多い。
執事さんは故事ことわざモードを実装し、公開後もことわざを追加実装した。
◇お礼
今回ボイスドラマっぽいゲームという発想から始まっているので勿論声優さんに依頼を行っているのだけど、引き続きJiRさまに参加してもらっただけではなく、JiRさま繋がりでりささんにも参加していただきメインヒロインの瑠璃ちゃんを担当していただいた。
お二方は単に声を担当したという域を超えて協力してくださった。
BGMについては当初何も考えていなかったが、りささんがBGMの監修を行ってくださり、これによって場面に応じて適切なBGMが再生されるようになった。
JiRさまは効果音を監修してくださり、ボイスドラマパートの効果音を的確に指示していただけたので場面に応じて紙の音や歩く音などを入れることが出来た。
それにお二人には進行状況を常に共有しており、検証に協力してもらったり、困った時に励ましてもらったり、様々なアドバイスをしていただいた。
お二人がいなかったら『或る夏の日々』は完成しなかったと思える。
とてもありがたかった。
にゃんこの声を担当していただいたミントさんは、当初私の構想の中では登場予定だったメイドキャラを依頼したいなぁと思っていたのだけど、完成させるために省いてしまったので依頼する事はなかった。
元々にゃんこの声は自分の声でいいか、または無しでもいいかもと思っていたけど、12月を過ぎていざ完成が近づいてきた段階で、やっぱりにゃんこの声は可愛らしい声でなければならない。という当たり前の事実に気が付き、急遽ミントさんに依頼できないか連絡を取った。
そして急な話にもかかわらずミントさんが引き受けてくれたので、あの可愛らしいにゃんこの鳴き声が実装されたのであった。
お忙しい中急なお願いをきいていただいたミントさんにもとても感謝している
◇苦労した点
全般的に全て苦労したと思う。
でも、一番苦労したのはBGMである。これは間違いない。
時間帯や場面ごとにBGMは変化する。
これを自然に切り替えるためにフェードイン・フェードアウトを行う。
当初、なんてこと無い、音量を少しずつ変化させるだけと思っていたけど、iPhoneのSafariではJavaScriptの普通の指定方法で音量を変化させても変わらないことに気がついた。
更にiPhone、iPadはChrome等の他のブラウザと異なりユーザーの行動を伴ってもURLが遷移するとBGMが再生されないという仕様であった。更にiPadは通常プログラム的にはMacと認識されるようになっているが、MacのSafariはBGMが鳴るのにiPadのSafariはMacのふりをしているのにBGMが鳴らないという面倒な事になっていた。
この為、iPhone,iPad用に異なるBGM処理を用意していた。しかし異なる仕様が原因の不具合が多数発生したので公開後に仕様を一つにまとめる改修を行った。
◇まとまらない
まとめ、としたいところだけど、公開から一ヶ月半が経過した今でも『或る夏の日々』は自分の中で何も消化できていないように思う。
『Smile Reversi』の制作ノートでは最後に声優のJiRさまと対談を行っていた。今回もそうしようかと思ったけど、制作ノートにくっつける形ではなく、単体の別記事とする事にした。
なので、この制作ノートの後に鼎談を公開する予定である。
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